美術デザインのここがおもしろい~デザインはパズルだ~

「大きく分けて二つあります。一つは絵を描いている時。もう一つは現場に出た時」

今井のモチベーションの源泉を探るべく向けた、美術デザインのおもしろさは何か、という質問に対して、今井はこう切り出した。

img_3150

「まず一つ目ですが、今言ったように絵を描いているときです。僕の仕事では、描いたあとに必ず造る工程が発生します。つまり、僕の描いた絵を実際に制作する誰かがいるので、そういう人たちにとって作りやすさを考えながら描く。作りやすさというのは、造るのにかかる時間、お金、労力、効率などです

あるいは『絵を見た人のモチベーションを上げること』が大切だとも言えます。僕の描いた絵は監督やプロデューサーに対するプレゼンでありつつ、造る人にとっての大切な資料でもあるわけです。いかにして『大変そうだけれどおもしろそう』と思ってもらえるかが重要です

『これくらいだったら赤字にならないだろう』というようなせめぎ合いはいつもあります。僕の思うデザインとは、見る人に情報を伝えなければならないもの。情報伝達ですよね。昔とある人に言われたことがあります。『デザイナーは机が綺麗でなければならない』と。これは真理だと思っています。というのも、デザインとは伝えるべき情報を整理整頓しなければならない。ある種のパズルです。視覚から情報を伝えるビジュアルコミュニケーションは全部計算だから。究極的には、デザイナーは理系なんだと思いますね」

続けて今井はこう語る。

「従って、例えば映画を見るときにも、どれだけ計算されて撮られているか、というところに注目しています。セリフに頼らず視覚情報だけで伝える、これこそが映像表現なのです。また、1925年の映画『戦艦ポチョムキン』は、史上初めて編集が施された映画として知られています。見せたいものを順番に見せる。つまり『このカットではどのアングルから何を見せるか』を計算しながら見せていると。映画においては視覚に入るもの全てが情報で、全てが計算されていなければならないと僕は考えています。こういった、いわば数学的な考え方をすることが僕は好きですね」

 

今井の言葉を聞き、筆者は「これまで、デザイナーとは何より感性が大事な職業なのだと思っていたが、そうではなく緻密に計算できる能力が重要なのだ」と強く感じた。

その感想を向けると、今井はこう答えてくれた。

「デザインは計算の連続。感性よりも計算が必要ですね。他のデザイナーの人のことはよくわからないけれど、自分のスタイルがそうで、僕はそれが好きだから。ただ、さっき言った『デザイナーの机は綺麗であるべき』という観点で見れば、僕の机はそんなに整理整頓してはいないけどね(笑)」

 

ここまでが美術デザインのおもしろさ、大きく分けて一つ目の「絵を描く工程」についてだ。

ここからは二つ目の「現場に出た時のおもしろさ」について迫っていく。

廃墟の扉を搬入

「現場でのおもしろさを一言で表すと、『計算し尽くして描いた絵が実現されていく』ところ。言い換えると僕が計算しながら描いた絵と、演じる役者さんが想像していたキャラクター像がマッチするということ。つまりは『計算がピタッとハマる』ことの基準は何かというと、セットのなかに用意した小道具を、役者さんが手に取ってアドリブ演技に使ったときです。小道具が役に活用されたのはキャラクターに合っていたからであって、役者さんのアドリブを引き出したら勝ちですね

一方で、背反するようだけど『計算していなかった、できなかったことが起こる』というのもおもしろい側面。演技の上手い役者さんは小道具の使い方が上手い。小道具の使い方次第で、リアリティがグッと出ます。『このキャラクターにはこういう小道具が必要だろう』という計算はしますが、用意した小道具をどう使うかは役者さんの自由でもあるので、そこは計算できるものではない。役者さんとのある種のシンクロニシティがあるのは現場ならではの楽しさです。」

 

締めくくりとして、筆者の「デザイナーの仕事における達成感を覚える時は、どんな時でしょうか」という問いかけへの今井の言葉を紹介しよう。

「少し抽象的になるけれど、デザインの仕事は、目の前に出されたパズルのような問題を解くこと。それがうまく解けたときに達成感を覚えます。今、高垣さん(筆者)と話していて、強く感じるのは、『人によって作品に対するアプローチは違う中で、自分自身はものすごく数学的に考えることが好きなのだ』ということ。見る人の反応を予想して解くパズルが好きなのでしょうね」


あわせて読みたい