大好きなアーティストと仕事をすること

数年前、CS番組でやっていたCocco特集をたまたま見ました。実は僕、高校時代からの大ファン。歌詞を見なくても全曲歌える程に毎日聴いていたので、当時見まくっていた映画のように、Coccoの作品も僕の人生観や創作活動に大きく影響を与えています。青春時代に好きだった作品というものはいま触れても心が震えるもので、番組で『星に願いを』や『ラプンツェル』が流れてくると当時の想いや情景がワーッと蘇り興奮しました。

番組が終盤に差し掛かり、『絹ずれ』が流れてきた時。「あれ、これは一年前に自分が作った祭壇じゃないか」と。自分がお仕事をさせて頂いたCoccoさんと、高校時代から好きだったCoccoが同じ人であることに、この時やっと気づいたのです。というか、もちろん分かってはいたことだけれど、仕事の時はファンだとか曲が好きだとかを思い出すことなく淡々と仕事を進めていました。そう気づき、とても勿体ないような気がしました。オファーをもらった段階で“大ファンの人と仕事ができる”と思えたら、高校時代の思い出や情景を抱えながら仕事が出来たかもしれないのに!

なぜ気づかなかったのだろうと考えても分かりません。もともと僕は人によってモチベーションを上下させるのは失礼だと思っているし、出演するアーティストや俳優が誰であっても淡々と仕事をこなす方です。それにしても勿体なかったと思いつつ、その後にCoccoさんと一緒に仕事をする時にもやっぱり強く意識をしないので、僕は仕事モードに入ると無意識にスイッチを切り替えているのかもしれません。

だけど『有終の美』MVの記事でも話したように、Coccoさんとの仕事でスペシャルなパワーを感じるのはいつものこと。アーティストは独特の空気感を纏っているものですが、彼女との撮影現場には他にない神秘的な空気が流れています。それは僕がファンとかは抜きにして、多分そこにいるスタッフの誰もが感じていることだと思います。

『玻璃の花』のMV撮影にて。撮られていくテイクをモニターで見ながら僕は身震いをしていました。とにかく全てのカットがカッコいいのです。とてもストレートなセットにシンプルなパフォーマンス。特殊なことは何もない。なのに、なぜこんなにも心が揺さぶられるのだろうと思ってプロデューサーに話すと、彼も「同じように思ってた。こんな事、滅多にないよね。」と。曲、企画、技術、関わる全ての人の想い、いろいろな偶然。そこにある何もかもがピッタリと共鳴し、素晴らしい映像が出来上がっていく瞬間を僕は見ていました。

いま思えば、この時に感じた奇跡的なものを成す偶然の一つに、僕がファンだったことも含まれるのかもしれません。意識していなかったけれど。それが作品のクオリティの向上に少しでも影響を与えたのだとしたら、これは夢のある話ですよね。

こうして奇跡が生まれるような撮影に立ち会うと、改めて思うのです。僕は根本的に映像が好きで、常にカッコいい映像が見たいと思っている。だから見たい映像を自分で作り、見て、満足している。時には自分の好きなアーティストのMVでビジュアルデザインを担当して、見て、感動できる。僕にとって映像美術は、最高に贅沢な仕事だと。


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