映画におけるプロダクションデザイン

映像作品におけるデザイナーや美術と聞いて、皆さんはどういったイメージを持っているでしょうか。小道具やセットを作っているという印象でしょうか。

今回は、映画におけるプロダクションデザインの役割について書いてみます。

冒頭シーンで全てが決まる

アメリカ留学中に受けた、UCLAエクステンションでのProduction Design101という授業。講師はMy Fair LadyのデザイナーGene Allenと、X-FileシリーズのデザイナーCorey Kaplanの2人でした。2人が最初に言ったのは、こんな言葉です。

「映画の脚本を読んでプロダクションデザイナーが最初にする仕事は、冒頭シーンの絵コンテを描くこと。そして、それを監督にプレゼンすること」

img_20161005_155017_1024まず、なぜ冒頭シーンの絵コンテから描くのか。映画の冒頭はこれから始まるストーリーの全てを象徴し、予感させる必要のある最も重要なシーンだからです。講師のGeneは、名作の最初と最後のカットは同じであるとも付け加えました。僕は一人の映画ファンとしてもその意見に大賛成ですが、もちろん同じカットではなくとも、冒頭シーンが作品の中で重要な意味を持つことに誰も異論はないでしょう。

 

次に監督へのプレゼン。Gene曰く、

「監督や脚本家は作品に対して個人的な思い入れがあり、意味のない冒頭シーンを思い描いていることが多い。対してデザイナーは、物語とテーマを一般化し、客観的な視点でコンセプトの伝え方や組み立てを考え、何が最も的確であるかを考える必要がある。それを監督にプレゼンし、納得させることが重要だ。」

img_20161005_155009_1024お客さんが映像を見るとき、フレームの中で見られる部分はほんの一部。だからこそ、その視点を的確に誘導し、見てほしいものを見せ、効率よく情報を伝える必要があります。

例えば、主人公の部屋に飾られた写真をカメラが移動して映していくのは、映画でよく見られるシーンですね。この写真の順番がズレたり余計な写真を混ぜてしまっては、主人公の生い立ちはたちまち分からなくなってしまいます。

これは推理小説にも似ていると僕は思っていて、読み手によって推理が簡単すぎても難しすぎても面白くない。手がかりの与え具合や順番、タイミングも重要ですね。ここが少し違っただけで、名作にも駄作にもなり得てしまうのです。

A Moment in Juneでも、美術担当の僕が全カット(約900)の絵コンテを監督と相談しながら描きました。その後カメラマンが合流して各アングルの検証に入りましたが、その時点では絵コンテを全て並べればストーリーの全体を見渡すことができました。つまり、既に映画の肝となる部分はほぼ出来上がっていたとも言えます。

img_20161005_155048_1024デザイナーの仕事とはコンセプトを考えることではなく、コンセプトを上手に表現することです。そしてプロダクションデザインとは、作品全体の流れを作り、トータルのビジュアルをきちんとデザインすることが根本。セットや小道具に取りかかる前に、それが大前提です。つまりプロダクションデザイナーとして冒頭のシーンを考えることは、その映画で何が一番重要なのかを考え、それを客観的視点に落とし込み、具体的にどのシーンで、何を見せて、どう表現するかを考えること。絵コンテを描かない仕事であっても同様です(※ちなみにアメリカにおいて映画の絵コンテは美術部管轄がであることが多いですが、日本映画では絵コンテを担当するのは演出部さんであることがほとんどです)。

名作に見る冒頭シーン

『フォレスト・ガンプ/一期一会』より

『フォレストガンプ』
鳥の羽が風に吹かれ、揺られ、フワフワと舞う冒頭。フォレストの一生を暗示しているのです。作品を見たすべての人の印象に残ると言える名シーンですね。

 

『汚れた血』

車窓から伸ばした手から放たれた紙屑が、風に吹かれて飛んでいくカット。そこから中盤のダンスシーン、ラストのカー(バイク)チェイスまで、“吹き抜ける風”がテーマになっていることを暗示しています。

『ラストタンゴ・イン・パリ』より

『ラストタンゴインパリ』
主人公の男が天を仰ぎ「なんてこった!」と叫ぶカットが冒頭ですが、このカットがクライマックスの直前にもう一度登場。これは後半に男を突然襲った衝撃を象徴するシーンで、そこからどんでん返しのチェイスシーン(逃げる女を追う男)に繋がります。作品の中で一番重要なカットを最初に見せています。

僕は映画が好きなので、こうした例をあげたらキリがありません。『七人の侍』や『レザボアドックス』、アニメ『魔女の宅急便』などを見ても、多くの監督が冒頭のシーンに知恵を絞っていることが伺えます。

表現方法を考える

デザイナーには、色・形・質感・コントラスト・明暗・動きなど、極端に言えば役者さん以外の部分であれば何でも使っていい権限が与えられています。具体的には小道具や大道具、雨・風・雪、煙・ほこり、ロケーション、木々、大地、絵・記号・模様など。

例えば映画のテーマがノスタルジーだとしましょう。それを表現するには、夕日ブリキのおもちゃ、特定の時代に沿ったものなら建設途中の東京タワーオート3輪車豆腐屋の笛の音などが考えられるでしょうか。

テーマを伝えるには役者さんの台詞や動きが一番分かりやすい方法であることは当然ですが、全てが台詞で説明されてしまっては面白くないですよね。台詞以外の部分で、台詞を補完し、時には台詞以上に語る。それがプロダクションデザインです。


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