LAにおけるユニオンの存在感

アメリカで映像の仕事をする人にとって、避けては通れないのがユニオンです。いつかは映画の街・ハリウッドで仕事をしたいと考える人も多いと思うので、今日はLAのユニオンについて書いてみようと思います。僕がLAにいたのは2014年頃なので、現在では少し変わっている部分もあるかもしれませんが。

雇用と権利を守るための組織

adgアメリカではユニオン(労働組合)の力が強いと聞いたことがある人も多いと思いますが、映像業界においても例外ではありません。ユニオンは労働者の雇用と権利を守るシステムです。最低賃金や労働時間、保険、年金などの保障がされています。
アメリカの映像作品は、まず、ユニオン作品とノンユニオン作品に分かれていて、前者はユニオン加入スタッフにより規定を順守した上で制作されたもの。ユニオン作品はユニオンワーカーで作られることが前提なので、例えば優秀なアートディレクターを指名で雇いたいとしても、その人がユニオンに加入していない場合はスグに雇うことはできません。まずはユニオンに登録されている全てのアートディレクターにコンタクトをとり、全員がスケジュールNGの場合にのみ、そのスタッフを雇うことができるのです。つまりユニオンに入っていれば仕事が貰えます。とは言え自動的に仕事が降ってくるわけではなく、加入者同士のコンペはもちろんありますが。

ユニオンへの批判

“雇用と権利を守ってくれる”と聞くと労働者にとってメリットしかなさそうですが、批判の声が多いのも実情です。
映像業界ではカメラ、照明、美術などのカテゴリーを更に細分化し、例えば美術ではアートディレクター、セットデザイナー、装飾、背景、イラストレーターなど各職種に対してユニオンがあります。
ユニオンに入りたいと思ったら、まずはどの職種にするかを選択します。加入後は、それ以外の仕事をすることはできません。仕事を細かく線引きすることで、皆が従事できるようにしようという“雇用確保”の目的もあるからです。マルチな才能がある人でも様々な仕事に携わることはできません。そのため、技術も作業スピードも目まぐるしい変化を遂げている現代においては、数十年前に設立されたユニオンのルールが足枷に感じてしまうことも少なくないのです。

また、新規加入の条件が高く設定され、排他的な組織であるという批判もあります。条件は加入するユニオンによって変わりますが、僕が現地にいた頃のADG(Art Directors Guild)はこうでした。

  1. 過去3年間以内でトータル90日間以上、撮影現場でギャラを貰って働いたことを証明する書類の提出。(ギャラの支払い明細やクルーの名簿など)
  2. 加入しようとするユニオンのクレジット提出。(アートディレクターのユニオンに入りたければ、ギャラの明細にもアートディレクターとクレジットされているなど)
  3. 入会金
  4. EFR(エマージェンシーファーストレスポンス)の受講。衛生管理や人工呼吸などを学び、安全な労働への意識をつける。

4はとても良い取り組みですが、外国人にとっては1のハードルが高い。母国のキャリアはカウントされないため現地でも下積みから始めなければなりません。3の入会金は結構高くて、アートディレクターのユニオンは2014年当時のレートで日本円にして100万円前後だったと思いますが、今はもう少し下がったようです。この金額はユニオンによっても異なります。

ここで、ちょっとした裏技のお話。ノンユニオン作品の現場でストが起こるとユニオンがテコ入れのために登場します。そこでプロデューサーがユニオン作品として制作することを決めると、スタッフ達は上記の条件をクリアしなくても自動的に加入することができます。そのため、あえてストの起こりそうな撮影を探して仕事をする人もいるほど。しかしプロデューサーが“ストを起こすなら全員解雇”とする場合もあるので、ユニオン加入どころか仕事を失うリスクもあるのですが。

映画の街の衰退とユニオン

映画といえばハリウッドのイメージが強いですよね。しかし僕が再渡米した頃、現地の映像・映画産業は既に衰退し、その主戦場はアトランタやニューオーリンズに移っていました。それは何故か。主としてお金の問題があると思います。LAは家賃や撮影許可費用、ユニオン既定の最低賃金が高い。一方でアトランタやニューオーリンズは映像制作会社の法人税を免除するなど、産業誘致に力を入れていました。飛躍的な成長により人材不足でユニオンにも入りやすく、僕自身もLAに着いた途端「アトランタに行った方がいいよ」と言われたほど。こうした状況に危機感を持ったユニオンワーカーや著名ディレクター達の働きかけによりLAでも免税などが実施されるなど、僅かに復活の兆しを見せてはいるようです。

ニューメディアの登場

いまや映像は映画館やテレビだけで見る時代ではなくなりました。ネット限定の広告や映画、ドラマなどが増加しています。この動きは今後さらに加速するでしょう。ネット動画はノンユニオン作品です。iPhoneひとつで映画を作れる現代において、一人が色々な仕事をまかなえるネット動画はユニオンの枠にはめられません。そのため、ノンユニオンで勝負する若手が増えてきています。ユニオンに入っていなければ仕事ができないという時代ではなくなってきていることは確かです。


ユニオンに対しての意見は賛否両論です。映像を取り巻く状況やテクノロジーが大きく変化し、今後はユニオンの在り方も変わってくるだろうし、変わらざるを得ない時に来ています。しかし労働環境の改善・向上においてユニオンが大きく機能したことは事実で、ノンユニオン作品においてもある程度の条件が確保されていることが多いのは、“労働者の権利を守ろう”というユニオンの意識が広く普及した結果だと思います。

ユニオンに加入することによって、または加入しないことによって、出来ることも出来ないこともあります。これからアメリカで映像の仕事をしようと考える人も、自分自身の目的によって選択してみてください。


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