帰国直後に受けた逆カルチャーショック

日本に帰国後、すぐに関わった仕事はAKB48チームB「ロンリネスクラブ」のミュージックビデオ。久しぶりの日本での撮影を楽しめたし、LAで培ったことを試すという点でも良い経験になる撮影でした。そして帰国直後ということもあり、LAとの違いに違和感のような、逆カルチャーショックのようなものを覚えた仕事でもありました。

ファンタジックなドアを考える

004
企画書をメールでもらったとき、そこに登場するドアがキーアイテムかなと思い、ドアのCGをいくつか作りました。(最終的には、そこまで凝ったものではなくていいという話になったので、ロケ地のドアをそのまま使うことになったのですが。)

少しマジカルなデザインが良いかなと思い、ナルニア物語に出てきた古いクローゼットのようなイメージや、どこでもドアのようなものを考えていました。どこでもドアの表現はPVでよく見るので、ちょっとありきたりかなぁとも思ったりもしながら。

LAでは、僕がイメージで3DCGを作ったら、業者さんにDXFまたはIGESで送ればCNCで作ってくれる、というワークフローが普通だったので、日本でもそれができるだろうか?と、知り合いの大道具さん2社に聞いたところ、返事を聞いて愕然。

1)NCルータが静岡とか名古屋の業者に外注のため、最短で中二日くらいかかる。
2)都内にもマシンはあるけれど、ビットが90度のものしか付けられないため斜めカットができない。そして他の作り物でマシンが空いてなければ待たないといけない。

ビットが変えられないならレーザーカットと同じ。LAでお世話になってた大道具さんはCNC8台持ってたし、それ以外の大道具さんもCNCを持っていて、データ入稿が基本だったのに。さて、どうやってドアを作ろう……。

LAに渡る前に日本で活動していた時には、こういった作り物は木彫り造形や、スチロール造形という手法に頼っていました。これは手作業なので、いかんせんコストと時間がかかるのです。しかも自由曲面のため、デザイン画で描いた凹凸を造形屋さんに100%再現してもらうことは不可能。LAでデータ入稿して、ロボットが作ってくれるシステムに慣れてしまっていると、そのお金と時間が惜しく感じてしまうのです。そして3DCGを勉強してきた自分にとっては、3Dで精密なカーブまでモデリングするのはすごく簡単なので、なおさらロボットに頼みたいところでした。

その後ロケハンを経て、結果的にドアを作らないことになったのですが、今後もし作るのであればMDFレーザーカットを重ねるしかなかったと思います。

カットされてしまった演台

007
そうこうしている間に、ロケ地候補の資料が来ました。メンバーが正面の舞台に向かって告白を始めるという内容だったので、それを受け取る聞き手のような存在としてオブジェを置くのも面白いかなと思い、いくつか提案。写真の演台を現場に持っていきました。が、時間の都合で正面カットが撮影できず!また別の機会があれば使いたい演台です。舞台の上にあげるのに男手8人くらいでやっと持ち上がるくらいの重さなので、もう少し軽くなると嬉しいのですが。

ベンチの資料も作ってみる

008

現場の講堂には机も椅子もなく、椅子を用意しないといけないという連絡を制作部さんからもらったので、残された時間で集められそうなベンチの資料をつかい、配置イメージをつくりました。

この時点でまだロケハンにも行ってないし、スタッフの誰とも直接会って打ち合わせしていません。ロケハン&打ち合わせをできるのが撮影の直前だったので、ロケハンが終わったらすぐに準備を始められるように予め資料を作っておき、どのパターンになっても時間内で対応できるように大道具さんや小道具さんにも相談して、できる段取りを全て行ってからロケハンにのぞみました。

001ロケハン&打ち合わせを終えて

ロケハン&打ち合わせ後、講堂のシーンでは机も欲しいという監督からの要望があったので、残りの時間で手に入るテーブルを探しました。いつもお世話になっている高津装飾の斎藤さんが、素敵なテーブルたちを必要な数だけ集めてくれたので助かりました。

資料の配り方に違和感

違和感を覚えたのは、このとき。それは、僕が作っていたドアや演台やベンチ、その他いくつかの資料をロケハンの1週間前くらいに制作部さんに送っていたにも関わらず、ロケハンの時まで監督含むスタッフに展開されていなかったこと。なぜ展開しなかったのか。その理由としては「豪華な資料を見せちゃうと、監督が色々やりたくなっちゃって予算オーバーになるかもしれないので。実際にやるかどうかはロケハンの時に会って相談しましょう」ということでした。

今回の作品の場合、監督が事前に資料を見ていれば、手の込んだドアにはしないことや、講堂に長机も欲しいということについて、すぐに返事が貰えたはず。そうすればロケハン時にはよりシンプルなドアや長机の資料ももっと集められたし、さらに別のオプションも持てた。事前に詳細な金額もリサーチしていたので、ある程度は金額の判断も事前についたでしょう。

この撮影以降に参加した他の作品でも、同様のことが多くありました。事前に資料作ってメールや電話でいろいろ話しても「あとは実際に会った時に話しましょう」、実際に打ち合わせしても「あとは持ち帰って、分科会で話しましょう」。帰国したばかりだからかもしれませんが、こうした日本文化には、非常に違和感を覚えてしまったのです。

そのため現在は、資料はスタッフ全員に一度に送るようにしています。プロデューサーからは「今井さん、それ、みんなに見せちゃいましたか(苦笑)」といった反応もありますが、とりあえず、しばらくはこのスタイルで攻めてみようと思っています。確かに、制作部さんを通さずに僕と監督でプランを進めすぎてしまうと、予算的なフォローが遅れるという問題もあって、僕も過去にそれで失敗したこともあるのですが。

痛烈に感じる撮影現場での違い

そんな違いも肌で感じながら、撮影に臨みました。久しぶりの日本の撮影では「あぁ、こんな感じだったなー」と懐かしく感じることが多くありました。

1点、大きな違いとしては、アメリカの撮影現場の方が、日本よりもスタッフの動きが早いので撮影がとても早く進みます。ハリウッドにはユニオンがあるので、1日に14時間を超えて撮影はしないし、食事がすごくしっかりしていたり、という労働環境の違いもあるのですが、一番の理由は単純。最終的にはお金の問題だと思います。

日本では、例えば撮影部も照明部も技師がいて、チーフの助手がいて、セカンドの助手、サードの助手などが現場にいます。この中で一番経験豊富なのが技師で、その次がチーフで、セカンド、サードと位が下がるにつれて、経験値が下がって行きます。

ハリウッドでは技師よりも助手の方が圧倒的に現場経験が豊富な状況というのが往々にしてあります。DPは経験の浅い若者でも、カメラを運んだり、フォーカス合わせたり、レンズ交換する人が、かなりキャリアのあるオジサンなのです。照明も、Cスタンドを動かす人、ライトやフラッグを配置する人は、何十年もそればっかりやってきたベテランなのです。早いはずですよね。

日本でそれを想像すると

日本でも、カメラを握っているカメラマンや、モニター前で指示を出している照明技師さんと同じか、それ以上の現場経験年数を経た助手たちがファースト、セカンド、サードのポジションを務めたら、撮影はもっと早くなると思います。技師が助手に仕事を教えながら、怒りながら仕事をするのではないので。

今回のAKBの撮影ではカメラマンが松浦さん、照明が古山さんと、どちらも大御所の方。しかし現場を見ながら、なんでハリウッドより遅いんだろう、と思っていました。そして僕が出した答は、助手がみんな若いということ。ハリウッドでは、キャリアのある人達が助手を務めていますから、進行のスピードに差が出てしまうのも当然ですね。

日本でそうならない理由の一つは、文化的な違いだと思います。縦社会。でもこれは、どちらの方がベターかという話でもありません。ハリウッドシステムが日本にはまるはずもないですし、それぞれにメリットもデメリットもあるのです。

もうひとつの理由は、お金の問題。キャリアのある人を現場に呼ぶのは、キャリアの浅い、若い助手を呼ぶよりもお金がかかります。そのため、経験の浅い若者に頼らずにはいられない現場が出来上がってしまうのです。

とはいえ、こうして逆カルチャーショックのようなものを受けながらも、久々の日本での撮影は存分に楽しむことができました。


あわせて読みたい